「周りに家が建て込んでいて、窓がつけられない土地なら、上から光を取り入れればいいわけです。上からの光が差し込む先を工夫すれば、僅かな陽射しでも明るく暮らせるようになります」。こんな発想の転換が、条件の悪い土地でも素晴らしい土地に生まれ変わる。緻密な計算をして割り出した答えが立体となり、予想通りになった時、その喜びは何倍にもなる。それは一緒に喜んでくれる「そこに住む人」がいるからだ。
住みやすさを考える時、百瀬は目線や光の感じ方、人の感覚まで考慮してデザインする。だからだろう、その家に入ると気持ちがホッとする。「帰りたい」と思える家になる。
2007年、百瀬がデザインしたTASTY BOX2棟がグッドデザイン賞に輝いた。「生活をデザインする家」に光が降り注いだ。
TASTYBOXは、シンプルモダンな「白い箱」と和モダンな「黒い箱」と名付けられた。どちらも密集した土地に建つという想定で、「一見、窓の少ない家」だ。不思議なことに、室内は明るくて、窓が少ないとは思えない。そんなお客様の想像を越える発想と、シンプルで住み心地が良い家創りの根底には「和の心」が息づいている。昔から日本人が大切にしていた想いと、現代との調和が新しい創造を生んでいるようだ。
何より、百瀬は生活を大切にする。だから「ここにあったら良いな」と思うものがちゃんとそこにある─。そんな百瀬は幼い頃「ロックシンガー」になりたかった。